アクアリウム





瀬戸内海の風が白壁の街を通り抜けて私の頬にあたる。

「この風とも暫くお別れね。」

6月3日。

今日の結婚式を済ませたらニューヨークでの新しい生活が待っている。

うまくやっていけるのかな?・・・

私はそんなことを考えながら二階の窓からぼんやり朝靄を見ていた。
                   



トゥルルル…  

電話がLEDの光を放ちながら着信音を鳴らした。

誰かしら?こんな時間に。

「もしもし」

「もしもし?…間に合った…。」

ヒロシ?

10年来の友達のヒロシからだった。

「どうしたのよ?」

「今日、結婚式だろ?おめでとう!」

「えっ、それを言うために?」

「それを言うためだよ!10年来の友人じゃないか。」

ヒロシが笑う。

いつもの優しい笑い声。

なんだか懐かしい。

と同時に心が静かに震えた。

「…ばか」

「え?」

「ううん、ありがとう。でも暫くお別れね。」

「そうだね、ニューヨークでもしっかりやれよ」

「もちろん。…じゃあ、そろそろ行くわ…元気でね。」

「ああ、そっちこそ。」





ほんとに最後まで鈍いやつ…。

でも彼がそうだったから10年間友達でいれたのかもしれない。

 友達か・・・。

 ふぅっ…

ため息がこぼれる。





そうだ、彼らにも挨拶しなきゃ。

私は部屋の隅っこのアクアリウムに近づいた。

テトラ達が私に気づいて近寄ってくる。

「元気でね。

私の事…忘れないでね。」





それはまるでテトラへ伝言を頼んでるようだった。

ヒロシに言えなかった事を・・・