Fantastic Leman




              
トゥルルル…
トゥルルル…


「もしもし?」

「もしもし、私よ。今夜暇?」

またか…いつも突然の彼女の誘い。

彼女といってもそれは恋人ではなくて女性の友人。

もう5年以上になるか…

知り合いになってから友達以上恋人未満。

そんな関係がずっと続いている。

「ああ、いいよ。おかげさまで今夜の予定は無いよ。」

「まあ、相変わらずね。

今夜は新作があるのよ、楽しみにしてて。」

「新作って?もしかして…」

「そう、そのもしかしてよ。」

彼女はカクテルが好きで自分でも作る。

時々彼女のマンションは僕達仲間のミニバーになったりもしていた。

「ねえ、すぐ来れる?」

「ああ、30分でいくよ。じゃあ、あとで…」


僕はコットンのジャケットを羽織りながら愛車に滑り込む。

フェアレディZのエンジンをかける。

トラスト製マフラーから図太い排気音。

この排気音が彼女のマンションの住民からのクレームになったこともある。

今夜は…少し離れたとこへ止めることにしよう。







 ピンポン…


「ごめん、少し遅れたよ。10分過ぎたよな。」

「10分前には来てたじゃない?

『音』でわかったわよ。

今夜は離れたとこに止めてきたのね。」

やれやれ、彼女には何もかもお見通しか?…

「さあ、あがって。ちょっとゆっくりしてて。」

彼女が手際よく作業を始める。

しかし、ここのカウンターにはいろいろなカクテルベースがあるものだ。

僕は感心しながらタバコを吹かせていた。

彼女が説明を始める。

「まず、シェーカーに氷、清酒5/10、ホワイトキュラソー3/10、

キルシュ1/10、レモンジュース1/10を入れてシェイクします。」

シャカシャカシャカ…

心地よい彼女のシェイク音。

「そしてこれをグラスに注いで…

よく冷えたトニックウォーターで満たします。

ポイントはここで軽くステアして炭酸をとばすの。

最後にブルーキュラソーを2tsp静かに…

静かに沈めるの…。

完成よ!どう?」

出来上がったカクテルはグラスの上から2/3がほんのり白い。

そして下の1/3がほんのり青色である。

「きれいなカクテルだね…まるで澄んだ湖だ…」

「でしょう?

スイスの幻想の湖、レマン湖をイメージして作ったものらしいの。

オリジナルはトニックウォーターの炭酸をとばしたり

しないらしいのよ。

だけど私はとばしてみたの。

炭酸のせいですぐ色が混ざっちゃうから。

ねえ、飲んでみてくれる?」

「ああ…。

甘いけど…意外にさっぱりしてるね?」

「でしょ?

清酒にあなたの好きな辛口の剣菱を使ってみたの。」

「うん、なかなかいける。

…ところでこのカクテルの名前は?」

「ファンタスティック・レマン。

…あなたの事を意識して私なりに考えて手を加えたものなのよ…。」




僕の心が湖の底のように静かに揺れた。




彼女は僕の心もステアしていた…。